パルクールの原点へ(第8章: 自由へのステップ)
- Emi
- 1月28日
- 読了時間: 5分
更新日:3月18日
「リスの練習場で見た自由の形」
廃墟がパルクールの聖地に!若者たちの熱き挑戦
翌日、楓はダビッドの後ろを歩いていた。リスの町は静かで、時折風が吹くたびに古い石造りの家々がかすかに音を立てる。
町並みはどこか寂しげでありながら、その奥に秘められた力強さを感じさせた。
「どこに向かってるの?」
楓が尋ねると、ダビッドはふと振り返り、楽しそうに笑った。
「俺たちの練習場だよ。ここから少し歩いた先にある。」
楓はその言葉に胸を高鳴らせた。
廃墟と呼ばれる場所で、どのようにして彼らが自由な動きを追求しているのか──期待と不安が入り混じる。
やがてたどり着いた場所は、想像以上に荒れ果てていた。
倒壊した壁、朽ちた木材、雑草が生い茂る地面──しかし、その廃墟には活気があった。
若者たちが障害物を駆け抜け、壁を軽やかに登る。
まるで、この場所が彼らの動きによって生まれ変わったようだった。
「ここが俺たちの場所だ。」
ダビッドが目を輝かせながら言う。
楓はその場を見渡し、感嘆の声を漏らした。
「本当に自由に動ける場所なんだね……すごい。」
パルクールの基礎をマスター!試行錯誤の果てに
「楓、あそこの石柱を見てみろ。」
ダビッドが指差した先には、不規則に並ぶ石柱があった。
ダビッドは軽々と助走をつけ、石柱を跳び移る。
最後には見事な着地を決めると振り返り、
「ほら、こうやるんだ」と笑った。
楓はその光景に目を奪われた。
「私もやってみたい!」
だがその声を遮るように、リュカが冷ややかに言った。
「やめておけ。怪我をするだけだ。」
その言葉に楓は眉をひそめた。
そして、挑戦の意欲を見せ、毅然とした声で答えた。
「それは私が決めること。」
リュカは不満げにため息をつくが、ダビッドは微笑みながら肩を叩いた。
「大丈夫だ。落ちたって、それも練習のうちだよ。」
楓は足を踏み出し、助走をつけて石柱に向かった。一歩、二歩──最後の瞬間、思い切り足を蹴り上げた。
宙に浮いた体が石柱に触れ、かすかにバランスを崩す。
しかし楓はなんとか体勢を整え、ぎりぎりのところで着地した。
「やった!」
初めて石柱を越えた感覚に、楓は全身で喜びを感じた。
だが次の挑戦では足が滑り、バランスを崩して転んでしまう。
「だから無理だって言ったんだ。」
リュカの冷たい声が響く。
楓は痛む足を抑えながらも、悔しさを隠せなかった。
「失敗したって、また挑戦すればいい。」
ダビッドが穏やかに声をかけた。
「お前がどれだけ動きたいと思うかだよ。」
楓はその言葉を聞き、深くうなずいた。挑戦を繰り返す中で、彼女の動きには少しずつ力強さと柔軟性が増していった。
ライバルとの出会い! 友情が芽生える瞬間
練習を続ける中、リュカはどこか苛立った様子を見せ始めていた。
「自由な動きだって? そんなもの、何の役にも立たない。」
リュカの言葉に楓は胸がざわついた。
彼の目には、どこか抑えきれない感情が浮かんでいたからだ。
「リュカ……どうしてそこまで否定するの?」
リュカは険しい表情で答えた。
「俺が言いたいのは、無駄を排除した動きの方が本当の自由だってことだ。ダビッドのやってることは、ただの自己満足に過ぎない。」
その言葉に、ダビッドが静かに答えた。
「リュカ、俺は自分の体を知りたいだけだ。それに、お前だって動くことで救われたことがあるだろう?」
リュカは一瞬言葉に詰まったが、すぐに顔を背けた。
「そんなこと、どうでもいい。」
楓は二人のやり取りを見て、胸が締めつけられる思いだった。
焚き火を囲んで、未来を語る
その夜、練習後の焚き火を囲み、楓はダビッドに問いかけた。
「リュカのこと、気にしてる?」
ダビッドは少し考え込みながら答えた。
「あいつは動きに対して本気なんだ。それはわかる。でも、どこかで自分を縛りすぎてる気がするんだよな。」
楓は焚き火の炎をじっと見つめ、静かに言葉を返した。
「リュカだって、自由を求めてるんじゃないかな。ただ、それが上手く伝えられないだけで。」
ダビッドは目を細め、楓を見た。
「楓、お前は本当に不思議なやつだな。」
楓は微笑みながら答えた。
「私がここに来たのは偶然じゃない気がするの。だから、この仲間たちと一緒に、自由を探したい。」
焚き火の暖かな光に包まれながら、楓は改めて決意を胸に刻んだ。
この旅は、単なる冒険ではなく、彼女自身の成長と仲間たちとの絆を深めるものになるのだと──。
解説
パルクールにおける練習場の重要性
廃墟を練習場とする理由は、ただ自由に動くためだけではない。荒れ果てた場所を動きで再生することで、パルクールは自己表現と再生の象徴となる。若者たちは、この廃墟で新しい価値を生み出しながら、自分自身の成長を体現しています。
自由と効率の葛藤の延長
この章では、リュカとダビッドの対立がさらに浮き彫りになります。それぞれの価値観が練習場での動き方や指導スタイルに影響を与えています。楓が石柱に挑戦する場面でも、二人の哲学は鮮明に表れており、どちらが正解というわけではなく、それぞれの価値観が練習を豊かにしています。
• リュカの視点:
「効率を優先すべき」というリュカの主張は、石柱を使った練習でも顕著です。無駄を排除することが怪我を減らし、結果的に最速の成長につながるという彼の考え方が伝わります。
• ダビッドの視点:
一方で、ダビッドは「失敗や挑戦を恐れない」ことを重視しています。彼にとって、動きの中で自由を追求することが自己表現であり、成長そのものです。
チームと絆の重要性
この章は、楓が「挑戦と失敗を恐れない姿勢」を学ぶ一方で、彼女がチームの一員として認められ始める場面でもあります。楓が石柱に挑戦し続ける姿は、失敗を恐れずに挑戦することの大切さを象徴しています。また、仲間たちとの励まし合いや時には厳しい言葉が、彼女の成長を支える要素となっているのです。廃墟はただの練習場ではなく、若者たちが絆を深めるコミュニティの場でもあります。
戦後フランスの象徴としてのリス
リスの町の荒廃した風景は、戦後フランスの状況そのものを象徴しています。その中で若者たちが廃墟を練習場として再生する姿は、自由への希望と自己表現を体現しており、新しい時代への挑戦を示しています。
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