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パルクールの原点へ:自由を探す時空の旅 (第5章:新たな友との出会い)

  • 執筆者の写真: Emi
    Emi
  • 1月7日
  • 読了時間: 5分

更新日:2月19日




壁を越える挑戦


公園を抜けた静かな道端、苔むした石壁を前に楓が叫んだ。


「見るだけじゃなくて、教えてほしいの!」


前を歩いていたダビッドが立ち止まって振り返る。


「君、やる気なのか?」


楓は大きく頷いた。


「うん!どうしても越えてみたいの。」


ダビッドは面倒くさそうに肩をすくめ、壁に手を置く。


「じゃあ、やってみなよ。まず手をここに置いて、それから足を――」


楓はダビッドの説明を聞くや否や、勢いよく壁に向かって走り出した。

だが手が滑り、足が壁に当たる。


「痛っ!」


ダビッドは苦笑いを浮かべながらも、一瞬だけ興味を示す目で楓を見た。


「ほら、言っただろ? 無理だって。」


それでも楓は立ち上がり、埃を払う。「もう一回やらせて!」

挑戦を繰り返す楓。3回目、4回目――そして5回目。ついに指先が壁の頂点にかかる。手に力を込め、どうにか体を引き上げることに成功した。


「やった……!」


ダビッドは口元に驚きの笑みを浮かべた。


「……君、本気なんだな。普通なら諦めるのに。」


楓は息を切らしながらも笑顔を見せた。


「どうしても越えたかったの。壁を越えられたら、なにかが変わる気がしたから。」


その言葉にダビッドは一瞬だけ目を細めたが、すぐに笑い声を上げた。


「なんか面白いな、君。よし、もう少しだけ教えてやるか。」




現代のアイテムが生む絆



休憩のため石壁に腰掛けていると、楓はバッグから折りたたみ傘を取り出した。


「それ、何だ?」ダビッドが傘を指差して尋ねる。


楓はボタンを押して、パッと一気に傘を広げてみせた。


「日本の折りたたみ傘だよ。雨が降りそうなときに使うの。


ダビッドの目が好奇心で輝いた。


「すごい! これ、空でも飛べそうだな!」


楓は思わず笑ってしまった。


「日本じゃ普通のものだよ。でも、確かにそうかも。」


「日本には他にもこんな面白いものがあるのか?」


「うん、あるよ。でもフランスだっていろんな面白いものがあるでしょ? 例えば、あなたたちがしてるこの動きだってそうじゃない?」


二人は顔を見合わせて笑った。その瞬間、少しだけ距離が縮まった気がした。




ダビッドの家での歓迎



夕日が空を赤く染める頃、ダビッドが言った。


「この辺りに泊まる場所、あるのか?」


楓は少し困ったように答えた。


「実はまだ決めてなくて……。」


ダビッドは躊躇なく提案した。


「じゃあ、うちに来ればいい。」


突然の申し出に楓は驚きながらも頷き、ダビッドの家へ向かうことになった。




家族の食卓と父との邂逅



ダビッドの家は、石造りの簡素な平屋建てだった。庭には古びたトレーニング器具や木製の遊具が並び、暮らしの温かさと質素さを感じさせる。


玄関先で楓を迎えたのは、エレーヌという優しげなダビッドの母親だった。彼女は微笑みながら楓に手を差し出し、


「どうぞお入りなさい。夕食を一緒にいかが?」と誘った。


食卓に並んだのはポトフと硬いパン。シンプルながらも心のこもった料理だ。


「彼女は誰だ?」低く威厳のある声が響いた。


その声の主は、ダビッドの父、レイモンド・ベルだった。彼はじっと楓を見つめ、その鋭い視線に楓は少し怯んだ。


「親はどうした?」


楓は落ち着いて説明した。


「母が近くで用事をしているので、今夜だけお世話になります。」


レイモンドはしばらく考えたあと、低い声で言った。


「好きなだけここにいていい。ただし、ダビッドの邪魔はするな。」


夕食が始まると、家族の会話が弾む中、レイモンドは突然、楓に問いかけた。


「遊びに意味があると思うか?」


楓は少し戸惑いながらも答えた。


「はい、自分を成長させてくれるものの一つだと思います。」


レイモンドはその言葉に眉をひそめ、パンを口に運んだ。


「命を守る術を知らない動きは、無駄だ。」


楓はその言葉に戸惑ったが、エレーヌが穏やかに話を切り替えた。


「さあ、みんな冷める前に食べましょう。」




庭でのトレーニングと約束




その夜、ダビッドは庭でトレーニングに打ち込んでいた。月明かりが庭を包み込み、彼の動きが影絵のように浮かび上がる。木の枝を使って懸垂をしたり、石垣を駆け上がる姿は、まるで自然と一体化しているようだった。


楓は少し離れたところからその様子をじっと見ていた。静かな庭に、ダビッドの息遣いや靴が地面を蹴る音が響く。ふと、楓が声をかけた。


「ねぇ、どうしてそんなに必死で動いてるの?」


ダビッドは動きを止め、ゆっくりと振り返った。月明かりに照らされたその顔は、どこか遠くを見つめているようだった。


「俺、ずっと父さんの背中を追いかけてきたんだ。」


少し間を置いて、彼は静かに続けた。


「父さんは“効率的な動き”を極めてた。それが命を守るために一番大事だって信じてた。でもさ……俺は、それだけじゃ足りない気がしてる。」


「どういうこと?」楓は首をかしげる。


「効率的な動きは、生きるための手段かもしれない。でも、俺はそれ以上の何かを見つけたいんだ。誰かを助けたり、自分の限界を超えたり……そういう、動く意味みたいなものを証明したい。」


楓は彼の言葉に考え込むように目を細めた。

父親の哲学に挑みながら、自分なりの答えを探しているのだと感じた。


「それって、つまり……お父さんに勝ちたいってこと?」


ダビッドは驚いたように楓を見つめたが、すぐに笑みを浮かべた。


「ああ、そうかもな。父さんが作ったものを越えて、新しい価値を作りたいんだ。」


その笑顔に、楓も自然と頷いた。


「じゃあ私も手伝う。ダビッドがその答えを見つけられるように。」


ダビッドの目が一瞬輝き、「決まりだな!」と言うと、庭の片隅へ力強くジャンプを決めた。月明かりに照らされたその姿は、まるで自由そのものみたいに見えた。




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