パルクールの原点へ:自由を探す時空の旅(第4章:新たな友との出会い)
- Emi
- 2024年12月24日
- 読了時間: 4分
更新日:2月19日
現実世界の課題と夢
現実に立ちはだかる課題
「あそびフェス」の成功から数日後、翔真と楓は次の目標である「次回のイベント」に向けて動き出していた。
「まずは予算の確保だな。」
翔真が真剣な表情で手元のメモを見つめる。
「そうね。でも、スポンサーを探すにしても、何を売り込むか具体的に考えないと。今回は知り合いの力を借りて実現できたけど、次回も同じやり方じゃ限界があるよね。」
楓もノートを開きながら、前回のイベントで得た反省点を整理していた。
資金不足、スタッフの数、参加者の安全管理──どれも大きな課題だ。
翔真は深くため息をつきながら壁にもたれかかる。
「やっぱり、もっとアーバンスポーツの魅力を知ってもらうしかないんだよな。でも、それをどうやって伝えるかが問題だ。」
楓は彼の言葉に頷きながらも、どこかモヤモヤした気持ちを抱えていた。
「パルクールの本当の魅力って何だろう。それを伝えるためには、私たち自身がもっと深く理解しないと……。」
ダビッド・ベルの名前を知る
その夜、楓はパソコンでパルクールの歴史について調べていた。
「パルクールの発祥地はフランスのリス……創始者はダビッド・ベル……。」
ネットの記事には、ダビッドがパルクールを立ち上げた背景が簡単に記されていた。
「彼の父親はフランス軍の軍人で、『メトード・ナチュレル』という自然の動きを重視したトレーニングを実践していた……か。」
画面に映る一文が楓の目に留まる。
「効率的な動きで環境に適応する……それが原点だったのね。」
しかし、記事を読み進めるうちに楓は小さく首をかしげた。
「あそびフェスで見たパルクールとは少し違う気がする。こっちは回転とか派手な動きが多かったけど、ダビッドの頃はもっと実用的でシンプルだったのかな。」
現代のパルクールはパフォーマンス性を重視して進化している。それに対して、記事に書かれている原初のパルクールは、実用性を重視した動きだ。
「現代のパルクールとは少し違うのね。実際に動きを見てみないと、よく分からないな……。」
そうつぶやきながら、楓は机の上に視線を移した。そして、不意に目に留まったのが、古びた金属製のコンパスだった。
コンパスが開く時空の扉
「あれ、こんなの持ってたっけ?」
古びたコンパスは、どこか年代を感じさせるデザインで、針がきらりと光を反射していた。楓が手に取ると、針が突然ぐるぐると回り始めた。
「な、なにこれ?」
驚いて手を離そうとしたが、コンパスは淡い光を放ち、部屋全体が揺れるような感覚に包まれた。
そのとき、耳元で低い声が響いた。
「パルクールを本当に知りたいのなら……その本質を見に行くのだ。」
次の瞬間、楓の視界が真っ白になった。
リスの街での出会い
「ここ……どこ?」
楓が目を開けて辺りを見回していると、道端に立つ看板が目に入った。
「Lisses」と書かれた文字に、楓の記憶がよみがえる。
「リス……フランスのパルクールの発祥地!?」
そこは1940年代後半のフランス・リスの街だった。
煉瓦造りの家々が立ち並び、屋根にはツバメが巣を作り、舗装されていない石畳の道が乾いた音を響かせる。通りには物売りの声と子どもたちの笑い声が混ざり合い、人々の表情には疲労の影が見えながらも、少しずつ生活を取り戻そうとする明るさもあった。
服装は質素で、つぎはぎされた布地のワンピースを着た女性や、補修された靴を履く子どもたちが目につく。楓は戦争直後の厳しい暮らしを想像し、胸が少し締めつけられるような感覚を覚えた。
「……もしかして、昔のフランス?」
楓は呟きながら、周囲の景色を見回していた。
子どもの姿になる楓
驚きと興奮が入り混じる中、ふと自分の体に違和感を覚えた。
「あれ……?」
視線を下げると、袖がぶかぶかの見慣れない服を着ていることに気づいた。慌てて手を見下ろすと、自分の手が以前より小さくなっている。
「嘘でしょ……私、子どもの姿になってる!?」
驚いて近くの窓に映る姿を確認すると、そこには中学生時代の自分の顔があった。
「なんでこんなことに……。」
ダビッド・ベルとの出会い
その時、一人の少年が軽やかに塀を駆け上がる姿が目に入った。
石壁を蹴り、わずかな出っ張りを掴みながら、無駄のない動きで上に登り切る。その姿に楓は思わず息を呑んだ。
少年が地面に着地すると、楓は声をかけた。
「すごい!どうやってそんな動きができるの?」
少年は驚いた顔をしながら楓に振り向き、少し訝しげに答える。
「練習だよ。それより……誰?」
「私は楓。日本から来たんだけど……」
自分でもうまく説明できない状況に、楓は少し言葉を詰まらせた。だが、少年は興味を失ったように肩をすくめると、「ふーん、変な奴だな」と言い残し、歩き去ろうとする。
「待って!君の動き、見せてもらってもいい?」
楓の問いかけに、少年は一瞬立ち止まり、振り返って言った。
「動きならいつでも見れる。見たければついて来いよ。」
少年の名前はダビッド。パルクールの創始者「ダビッド・ベル」。
楓は彼と共に歩き出し、不思議な冒険の始まりを感じ取っていた。
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