top of page

クレオパトラの目元に宿る、時を超えた美しさ

  • 執筆者の写真: Emi
    Emi
  • 3月13日
  • 読了時間: 5分

更新日:3月16日


焦がしたアーモンド

炭素の影

彼女のまなざしは

永遠の魔法


Charred almonds,

Shadows of carbon,

Her gaze is

An eternal enchantment.



焦がしたアーモンドと炭で練り上げた「コール」 水と油に溶かし、細い棒で静かに描かれた黒い線。


銀色はアンチモン。

緑色はマラカイト(孔雀石)。


クレオパトラは、その瞳に色を重ねた。


上には銀。

下には緑。


色の境界が、彼女の目元に奥行きを与え、見る者の視線を絡め取る。


その目は、誘惑であり、力であり、運命だった。


1963年、映画『クレオパトラ』でエリザベス・テイラーが纏ったそのアイメイクは、古代エジプトの神秘と美を再び呼び覚ました。


60年経った今も、その大胆さは色褪せない。


むしろ、その輪郭は時代を超えて、私たちの目に、心に焼き付いている。



美への執着は

5000年前から



私たちの「美」への探求は、5000年前の古代エジプトにまで遡ります。

中でも、エジプト最後の女王、クレオパトラ7世の名は、その美しさと共に語り継がれてきました。



古代エジプトのメイクは美と魔除け



古代エジプトでは、男女ともにアイメイクをしていました。目の上下に異なる色を重ねることで、より豊かな表情を演出。


このアイメイクは単なる美しさだけではありません。


古代エジプトの人々は、「悪霊は体の開口部から侵入する」と信じており、目元を暗くすることで魔除けとしての役割も果たしていました。


身を守るために目を暗くし、鼻や耳にアクセサリーを身に着けました。その重要性は、ラーの目などのエジプトの芸術やシンボルにも見られます。


さらに、砂漠の強い日差しや埃から目を守る実用的な効果もありました。

美しさと実用性が融合したこのスタイルは、髪型やファッションとも調和し、独自のエジプト美学を築き上げていたのです。



忘れられた美が蘇る瞬間


20世紀初頭、ツタンカーメン王の墓の発見(1922年)は、古代エジプト文化の美意識を再び世に知らしめました。


その神秘的でエキゾチックな美しさは、西洋文化に強い影響を与え、アートやファッションにも取り入れられていきます。


1920年代から50年代にかけては、リップスティックがメイクの中心であり、唇に注目が集まっていました。しかし、1947年にクリスチャン・ディオールが「ニュールック」を発表すると、流れは変わります。グラマラスなバストライン、引き締まったウエスト、たっぷりのAラインスカート。これまでのシンプルで控えめだったファッションに対し、「華やかでフェミニンなスタイル」が注目されるようになりました。


このスタイルの変化に伴い、メイクもより華やかで大胆な方向に進化し、再びアイメイクが注目されるようになったのです。



1960年代、再び注目されるアイメイク



1960年代に入ると、アイメイクに鮮やかな色彩が戻ります。


1961年、レブロンは「アイベルベット」という新しい液体アイシャドウを発売。 「ブルースノードロップ」や「ターコイズペタル」などロマンチックな色名と共に12色が展開されました。


そして、1963年の映画『クレオパトラ』の公開と共に、レブロンはこのルックにインスパイアされた新しい化粧品を販売。


エリザベス・テイラーのライフスタイルと化粧品業界の発展が相まって、60年代の創造性に満ちたアイメイクのブームが誕生しました。



クレオパトラの遺産は

今も生きている



クレオパトラの美学は、現代の女性たちにも影響を与え続けています。


彼女の美しさは、単なる外見だけでなく、メイクの知識とそれを駆使した変身術にありました。時代を超えてなお、彼女の遺産は色褪せません。


時を超えた美しさは、ただ古いだけではなく、歴史と文化、人々の情熱に支えられ、今も新たなインスピレーションを与えてくれます。


 

備考1:関連サイト


• 国立博物館|クレオパトラとエジプトの王妃展(2015年)




備考2:古代エジプトの美と命懸けのリスク


古代エジプトの人々は、美しさと信仰を両立させるために、命懸けのリスクと隣り合わせで化粧を施していました。



1. コール(Kohl) – 美と毒の狭間


  • コールは、焦がしたアーモンドや炭、鉛を含むガレナ(硫化鉛)などから作られた黒い粉末で、目元を縁取るために使われていました。

  • しかし、鉛は有害であり、長期的な使用は鉛中毒を引き起こす危険がありました。

  • それでも、当時はコールが魔除けや眼病予防になると信じられ、太陽光や砂埃から目を守る効果があるとも考えられていたのです。



2. アンチモン(Sb) – 銀色の危険


  • アンチモンは銀白色の金属で、銀色の顔料として目元に使われました。

  • しかし、アンチモンもまた有毒で、肌への長期接触による中毒症状や健康被害のリスクがありました。


3. マラカイト(Malachite) – 緑の誘惑と毒性

  • 美しい緑色を持つマラカイトは、粉末にしてアイメイクとして使用。

  • しかし、マラカイトは銅を含む鉱石であり、細かい粉末を吸い込むと重金属中毒の危険がありました。

  • 傷口に入れば、命に関わることもあったでしょう。



美しさは命懸けだった



古代エジプトの人々は、美しさを手に入れるために、見えない毒と向き合っていたのです。

それでも彼らは、美しさが神聖なものであり、魔除けや守護の力を持つと信じて、命懸けで装飾を施しました。



現代は安全に楽しむ時代



現在のコスメは科学的に安全性が確保されており、鉛やアンチモンなどの有害成分は使われていません。

だからこそ、私たちはクレオパトラのような神秘的なアイメイクを、安全に楽しむことができます。

けれど、命懸けだった美の歴史を知ることで、今の「美しさの自由」がどれほど幸せかを感じられるのではないでしょうか。

Comments


あそびと文化のレシピロゴ
あそびと文化のレシピ
  • Instagram
  • X
  • YouTube
  • TikTok
bottom of page